DNA損傷応答

DNA Damage Response (DDR)

DNAの損傷を検知し、修復と細胞周期チェックポイントを協調させる生化学的経路の網。ATM・ATR・DNA-PK がその中心にあり、CHK1 や WEE1 が細胞周期を制御する。修復経路の一部を失ったがん細胞は別経路に依存するため、PARP阻害剤に代表される合成致死の標的になる。

詳細

Nature Reviews Cancer の総説「Targeting DNA damage response pathways in cancer」(2023年、23巻78–94頁、DOI: 10.1038/s41568-022-00535-5)は、DNA損傷応答(DDR)を、有害な変異が娘細胞へ受け継がれるのを防ぐために細胞が備えた「複雑な生化学的経路の網(a complex network of biochemical pathways)」と説明している。DDR はDNA修復機構と細胞周期チェックポイントの活性化を協調させる。

同総説は主要な構成要素として次を挙げる。

  • ATM・ATR・DNA-PK: 損傷の種類に応じて働くセンサーキナーゼで、「DNA損傷応答の中心にある三位一体」と表現される
  • CHK1・WEE1: CDK活性を抑えて細胞周期の進行を制御するチェックポイントキナーゼ
  • PARP: 一本鎖切断の修復と複製フォークの安定化に必須
  • POLQ(DNAポリメラーゼθ): 代替的な末端結合経路に関与

合成致死の考え方は、がん細胞におけるDDR遺伝子の変異を利用する。BRCA1/2 変異などで相同組換えが損なわれた腫瘍は代替修復経路に依存するようになり、PARP阻害剤に選択的な脆弱性を示す。総説は「DDR遺伝子間には他にも多くの合成致死の関係が存在する」と述べており、ATR阻害剤やPolθ阻害剤など新たな標的の開発につながっている。