Irreversible electroporation
Technol Cancer Res Treat 誌に掲載された総説「Chemical Enhancement of Irreversible Electroporation: A Review and Future Suggestions」(2019年)によれば、不可逆電気穿孔法(IRE)は、熱を用いずにがんを破壊する手段として過去10年に大きな関心を集めてきた。同総説は IRE を、短い高電圧の電気パルスによって腫瘍細胞の細胞膜の透過性を高め、ナノサイズの不可逆な構造欠損すなわち孔を生じさせ、細胞死に至らせるアブレーション技術だと説明している。
同総説によれば、数十年にわたり凍結アブレーション、高周波アブレーション、マイクロ波アブレーションといった熱的手法が肝臓、肺、膵臓、腎臓、前立腺などの腫瘍に対する低侵襲治療として用いられてきた。IRE はこれらに対し非熱的なアブレーション手法として位置づけられる。
同総説によれば、もともと可逆的な電気穿孔(RE)は抗がん剤分子を腫瘍細胞へ送り込む手段として用いられ、電気穿孔と抗がん剤を組み合わせた方法はエレクトロケモセラピー(ECT)として知られる。2005年に Davalos らが、細胞傷害性薬剤も熱効果も用いずに電気穿孔そのものを独立した治療として腫瘍組織を破壊するという概念を提案し、IRE はまもなく臨床に導入された。
同総説は、非熱的な作用機序に由来する利点として、周囲臓器を傷つける危険が減ること、近傍の血管によってエネルギーが奪われるヒートシンク効果が生じないことの2点を挙げている。一方で、直径3cmを超えるような大きな腫瘍を完全にアブレーションすることは難しいとされる。また、電界の分布に応じて、不可逆電気穿孔の領域、可逆電気穿孔の領域、影響を受けない領域が治療部位に生じる点が、効果を高めるうえでの検討対象になっている。
非熱的であるという性質は、熱に弱い構造物の近くや、内視鏡・カテーテルを介した到達が前提となる部位での応用に向く。腫瘍のアブレーションに加え、標的とする細胞だけを選択的に除去する用途でも装置開発が進んでいる。