Electric Propulsion (EP)
NASA の小型宇宙機技術の現状報告(State of the Art of Small Spacecraft Technology)は、推進の章で電気推進を扱い、小型宇宙機向けにこれらの系を小型化することが固有の課題であるとしている。コールドガスとパルスプラズマは小さな速度増分の用途に向き、より要求の厳しい機動にはさらなる開発を要すると述べられている。電気推進と化学推進のいずれも成熟が進んでおり、多数のデバイスについて推力スタンドによる計測と寿命試験が行われてきたとされる。
同報告は電気推進を方式ごとに整理している。レジストジェットは推進剤を電気的に加熱して膨張・噴出させる最も単純な方式で、キセノンを用いる例では200Wで13mNの推力、比推力1,390秒が挙げられている。エレクトロスプレーは、蒸気圧が無視できる導電性の塩を推進剤とし、そこから静電的にイオンを引き出して加速する方式で、加圧を必要としない。1.5Wで74マイクロニュートン・比推力1,160秒、1.6Wで120マイクロニュートン・比推力2,000秒といった例が示されている。イオンエンジンは高周波などでプラズマを生成して推進剤を電離し、高い排気速度を得る。60Wで1.4mN・比推力3,500秒の例が挙げられている。パルスプラズマスラスタと真空アークスラスタは電極間の高電圧放電で固体推進剤をアブレーションさせて推力を得る方式で、PTFEを推進剤とする例で比推力655秒、チタンを用いる真空アーク方式で2,500〜3,000秒が示されている。ホールスラスタは大型宇宙機ですでに成熟した方式であり、小型化にあたっては中和器の開発が課題とされる。
比推力が高いほど同じ質量の推進剤から大きな速度増分を得られるため、電気推進は推力が小さくても長時間噴射できる用途で有利になる。同報告に挙げられた値では、比推力はおおむね500秒台から3,500秒に及ぶ。一方で推力はマイクロニュートンからミリニュートンの領域にとどまり、電力も数ワットから数百ワットを要する。推力・電力・比推力の組み合わせが方式ごとに大きく異なるため、軌道保持、軌道変更、デオービットのどれを狙うかによって選ぶ方式が変わる。