Self-Driving Laboratory (SDL)
Chemical Reviews 誌に掲載された総説「Self-Driving Laboratories for Chemistry and Materials Science」(2024年)によれば、自律実験室(SDL)とは、自動化された実験とデータ駆動の意思決定とを統合し、科学的方法の適用を加速することを目的とした系を指す。同総説は、この方向の初期の試みが1970年代にさかのぼるとし、以後「autonomous laboratories」「closed-loop experimentation」「materials acceleration platforms」といった呼称が用いられてきたと述べている。SDL という用語自体は21世紀に入って一般的になったものであり、同総説は Maruyama らによって最初に導入されたとしている。
同総説によれば、SDL の概念には二つの決定的な軸がある。一つはデータ駆動の意思決定の自動化(ソフトウェア)であり、もう一つは実験ワークフローの自動化(ハードウェア)である。実験の選択に関わるソフトウェア自律度は、(1) データ駆動の手法で実験を設計する自動実験を一巡だけ行うもの、(2) 実験結果を次の実験の設計に還す閉ループを複数回まわすもの、(3) 探索空間そのものをアルゴリズムが生成したうえで閉ループ最適化を繰り返す生成的な手法、の三段階に分類される。実験の実行に関わるハードウェア自律度は、(1) 単一種類の実験を行う単機能の構成、(2) 設計や探索のために複数の作業や実験を組み合わせたワークフロー構成、(3) 人手の介在なしに多様な実験を実行できる完全自動の実験室、の三段階に分類される。同総説は、この分類が自動運転車の自律度の階層的枠組みに類似すると述べている。
同総説によれば、化学と材料科学における SDL の主な用途は、性質を最適化した分子や材料の探索と、反応条件やプロセス条件の最適化である。自動化された実験は従来手法より高いスループットと精度を達成でき、データ駆動の探索アルゴリズムは得られたデータのフィードバックに基づいて実験空間を効率よく探索できるとされる。同総説はまた、自動化が研究のデジタル化を促し、実験手順の記録が精密になることで再現性が高まること、自律実験によって得られる大規模かつ高品質なデータセットが、材料科学・化学向けの機械学習モデルの改善に資することを指摘している。適用先は創薬、材料科学、ゲノミクス、化学など多岐にわたるとされる。