免疫系が正常に働かず、健常な細胞・組織・臓器を誤って攻撃することで生じる疾患群である。米国国立環境衛生科学研究所は、この攻撃が身体のあらゆる部位に及びうるとする。80を超える自己免疫疾患が知られ、1型糖尿病、多発性硬化症、ループス、関節リウマチのように広く知られたものから、まれで診断が難しいものまで含まれる。
イオン化脂質、リン脂質、コレステロール、PEG脂質から構成される核酸送達用のナノ粒子である。mRNAやsiRNAを内包して細胞内へ運び、酸性化したエンドソーム内でイオン化脂質が正電荷を帯びて膜を不安定化することで、核酸を細胞質へ放出する。脂質組成が体内分布と集積臓器を左右する。
筋肉の不随意な収縮によって、ねじれるような動きや反復的な動きが生じる運動障害である。米国立医学図書館のMedlinePlusは、収縮が痛みを伴うことがあり、単一の筋肉、筋群、全身のいずれにも及びうると説明する。症状は小児期に始まることが多いが、10代後半から成人早期に始まることもある。治癒させる方法は無く、薬剤、ボツリヌス毒素注射、手術、理学療法などで筋けいれんと痛みを抑える。
ヒトゲノム計画の完了後に使えるようになったDNA塩基配列決定技術の総称である。第一世代のサンガー法に比べて高速かつ安価に大量の配列を読み取れる点が特徴で、装置と試薬の組み合わせとして供給され、ゲノム解析の対象と規模を大きく広げた技術群である。
実験室で弱毒化した野生型のウイルスや細菌を用いるワクチン。米疾病対策センター(CDC)は、接種された人の体内で増殖する必要があると説明する。免疫系は弱毒化されたワクチン株と野生株の感染を区別しないため、生じる免疫応答は自然感染によるものとほぼ同一になる。
腫瘍細胞に感染して増殖し、細胞を破壊するウイルスを用いるがん治療である。米国立がん研究所(NCI)は、自然界に存在するウイルスと実験室で改変したウイルスの双方があり、改変型は健常な細胞を傷つけずにがん細胞の中で効率よく複製するよう設計されると説明する。ウイルスが腫瘍細胞に感染すると細胞が破裂するまで複製が進み、放出された腫瘍抗原が免疫系にがんの存在を知らせるため、免疫療法の一種として位置づけられている。
腫瘍から血中に放出された断片化DNA。米食品医薬品局(FDA)のガイダンスは ctDNA を「患者の血流中に放出された、細胞に付随しない腫瘍由来の断片化DNA」と定義する。量は腫瘍の種類・部位・病期・腫瘍量・治療反応によって変わる。手術や標準治療の後に残る ctDNA は分子的残存病変(MRD)を示し、予後不良と再発リスクの高い集団の選別に用いられる。
多発性嚢胞腎(PKD)のうち最も一般的な病型。家族内で受け継がれる腎疾患としては最も頻度が高い。
静脈の中に血栓ができる病態である。米国立心肺血液研究所(NHLBI)は、静脈血栓塞栓症を静脈内に血栓が形成されることで生じる病態と説明し、深部静脈血栓症(DVT)と肺塞栓症(PE)の二つの形をとるとしている。DVTは下腿・大腿・骨盤などの深部静脈に生じ、中心静脈カテーテルがある場合は腕にも起こる。血栓がはがれて血流に乗り肺へ達したものがPEであり、血栓が大きい場合や多数ある場合は死に至ることがある。
心筋のミオシンに直接作用して収縮力を調節する薬剤群。阻害剤は アクチン・ミオシン間の架橋形成を減らして過収縮を抑え、肥大型心筋症の左室流出路閉塞を軽減する。活性化剤は力を発生する状態へ移るミオシン頭部の割合を増やし、細胞内カルシウムを上げずに収縮を強める。
架橋(ステープル)を導入してαヘリックス構造を安定化させたペプチドである。全炭化水素型では立体配座を固定することが細胞膜透過性の向上に寄与することが示されている。リンカーの化学的な多様性を用いて脂溶性や立体配座の制約を調整し、脱溶媒和に伴うエネルギー的な不利を克服する設計がとられる。
生きた生物を含み、ヒトの疾患の予防・治療・治癒に適用され、かつワクチンではない生物学的製剤。
微生物や真菌が二次代謝産物を作る際に、その生合成経路を担う酵素遺伝子などがゲノム上の限られた領域にまとまって配置された遺伝子群を指す。配列解析によって計算機で検出できるため、培養や単離を経ずに天然物由来の新規化合物の候補を絞り込む起点として用いられる概念である。
受容体の内因性リガンドが結合するオルソステリック部位とは別の部位に結合し、作動薬の作用を増強する薬物。IUPHAR/BPSはアロステリック調節薬を、受容体分子上の別個の部位に結合して作動薬または拮抗薬の作用を増減させるリガンドと定義しており、増強側を正のアロステリック調節薬と呼ぶ。
前立腺上皮細胞の膜に存在するII型膜貫通糖タンパク質で、悪性化に伴って発現量が増える腫瘍関連抗原である。結合した分子が細胞内へ取り込まれる性質を持つため、放射性リガンドを標識した薬剤の集積先として利用され、前立腺癌の画像診断と放射性核種治療に共通する標的となっている。
ヒト細胞から作られ、臓器の構造と機能を模倣する生体工学デバイスである。米国立衛生研究所(NIH)傘下の国立トランスレーショナル科学推進センター(NCATS)は、これをティッシュチップと呼び、organs-on-chipsとも呼ばれると述べ、心臓、腎臓、肺などの臓器系の構造と機能を模すと説明する。医薬品がヒトで安全か毒性を示すかを従来法より速く効果的に予測するために開発されており、複数を統合したbody-on-a-chipや、動物モデルが病態を再現しない疾患の研究にも用いられる。
足場、細胞、生理活性分子を組み合わせて、機能する組織を作り出す実践である。米国立衛生研究所傘下の国立生体医工学・生体画像研究所(NIBIB)は、組織工学が生体材料開発の分野から発展したものであり、この三者を組み合わせて機能的な組織にすることを指すと説明する。生体内では細胞自身が分泌する細胞外マトリックスが足場にあたり、細胞を支えるだけでなく各種のシグナル分子の中継点としても働く。人工皮膚と軟骨は米国で承認された組織工学製品の例である。
超音波と微小気泡を併用し、細胞膜に一過性の透過経路を形成して核酸などの分子を細胞内へ導入する手法である。気泡の振動が生む音響流とせん断応力が膜の透過性を一時的に高める。ウイルスベクターに依存しない物理的な送達手段として、遺伝子医薬や細胞加工の分野で検討されている。導入効率は周波数や音圧などの音響条件に依存する。
ラクダ科動物に見られる重鎖のみの抗体に由来する、最小の機能的抗体形式。分子量はおよそ15kDaで、約150kDaの完全長IgGよりはるかに小さい。原核・真核の宿主で高発現し、溶解性と安定性が高く、小ささゆえの組み合わせやすさから二重特異性抗体やCAR分子の結合部位として使われる。
アミノ酸配列からタンパク質の立体構造を計算で予測する技術である。Google DeepMindが開発したAlphaFoldは2020年のCASP14でタンパク質フォールディング問題に対する解と評価され、EMBL-EBIとの協働により2億件を超える予測構造が無償で公開されている。
標的タンパク質とE3ユビキチンリガーゼの双方に結合するキメラ分子で、ユビキチン・プロテアソーム系を利用して標的タンパク質を分解させる。作用が触媒的である点と、阻害では狙いにくく「ドラッガブルでない」とされてきた標的にも取り組める点が特徴として挙げられている。
腸内細菌叢移植(FMT)は、健康なドナーの便に由来する微生物を患者に投与し、再発性クロストリジオイデス・ディフィシル感染症の再発を防ぐ治療である。ドナーは問診や血液・便の検査で選別される。米国では便由来の製品が生物学的製剤として審査され、承認されている。
米国国立がん研究所(NCI)は、治療用がんワクチンを「体が本来もつ防御力を強めることでがんを治療する免疫療法の一種」と説明している。予防用のワクチンと異なり、すでにがんに罹患している人に用いることを前提とし、がんの原因となるものではなくがん細胞そのものに作用する。
チロシンキナーゼのATP結合ポケットに結合し、基質のリン酸化と下流のシグナル伝達を遮断する低分子である。ATPと競合して可逆的に結合する型と、共有結合を形成して不可逆的に結合する型がある。治療中に生じる耐性変異への対応が、世代交代と設計目標の中心となってきた薬剤クラスである。
DNAの損傷を検知し、修復と細胞周期チェックポイントを協調させる生化学的経路の網。ATM・ATR・DNA-PK がその中心にあり、CHK1 や WEE1 が細胞周期を制御する。修復経路の一部を失ったがん細胞は別経路に依存するため、PARP阻害剤に代表される合成致死の標的になる。
T細胞と標的細胞を橋渡しし、免疫系を腫瘍細胞や感染細胞へ差し向けるよう設計された免疫治療分子。両者を近接させて擬似的な免疫シナプスを形成し、T細胞の活性化と細胞傷害を引き起こす。
好中球が骨髄で成熟する過程で好中球セリンプロテアーゼを活性化する酵素DPP1(カテプシンC)を阻害する薬剤である。炎症カスケードの上流でプロテアーゼの活性化を抑えることで、気管支拡張症やCOPDなど好中球性炎症が関与する疾患における組織傷害の軽減を狙う。経口の低分子として開発される例が多い。
分子量が小さく、細胞の中へ入りやすい医薬品である。米国国立衛生研究所(NIH)傘下の国立トランスレーショナル科学推進センター(NCATS)の用語集は、分子量が低いため容易に細胞内に入り、内部でタンパク質などほかの分子に作用しうると説明し、分子量が大きく細胞内に入りにくい医薬品と区別している。多くの分子標的治療薬がこれに当たるとされる。
免疫やライブラリスクリーニングに依存せず、計算モデルで抗体の可変領域を一から生成する手法。標的分子上のどの部位に結合させるかを指定し、相補性決定領域を含む配列と立体構造を出力する。設計候補は酵母提示などの実験系で発現させて結合を確認し、親和性成熟の工程を経て絞り込む。
天然タンパク質の改変ではなく、目的とする立体構造や機能を先に定め、それを満たすアミノ酸配列を計算によって一から設計する手法である。RFdiffusionやProteinMPNN、AlphaFoldといった深層学習モデルの登場により、標的に結合するバインダーの設計成功率が大きく向上した。