用語集

免疫チェックポイント阻害薬 Immune Checkpoint Inhibitor
バイオ・創薬

免疫チェックポイントは免疫系の正常な仕組みの一部であり、免疫応答が強くなりすぎて健常な細胞まで破壊することを防ぐ役割を担う。米国国立がん研究所によれば、T細胞上のタンパク質が他の細胞や腫瘍細胞上の相手側タンパク質と結合すると免疫応答を抑えるオフの信号が送られ、一部の腫瘍はPD-L1を大量に産生してT細胞の応答を弱める。免疫チェックポイント阻害薬は両者の結合を妨げてオフの信号の送出を阻み、T細胞ががん細胞を攻撃できるようにする。標的にはPD-1、PD-L1、CTLA-4がある。

正常圧水頭症 Normal Pressure Hydrocephalus
バイオ・創薬

脳脊髄液がゆっくりと蓄積するために脳組織が代償し、蓄積があっても頭蓋内の圧力が上昇しない病態である。米国国立神経疾患・脳卒中研究所によれば、歩行の問題、排尿の制御の喪失、思考や推論の困難を引き起こす。くも膜下出血や脳室内出血、頭部外傷、感染、腫瘍、手術の合併症が原因となることがある一方、これらの要因が無くても発症する人が多い。治療は脳内にシャントと呼ばれる管を留置し、過剰な液を胸腔または腹腔へ導く方法が基本となる。

緑内障 Glaucoma
バイオ・創薬

眼の奥にある視神経が損傷を受けることで視力低下や失明に至る眼疾患の総称である。米国国立眼研究所は、緑内障の多くで眼圧が高く、眼圧を下げる治療が進行を遅らせるのに役立つと説明する。ただし眼圧が高くても緑内障を発症しない人がいる一方、眼圧が正常でも生じる型がある。治療は眼圧を下げる点眼薬が最も一般的で、ほかに眼内の液の排出を促すレーザー治療、薬物とレーザーで効果が不十分な場合の手術がある。すでに失われた視野は治療では戻らない。

RNA干渉 RNAi RNA Interference
バイオ・創薬

二本鎖RNAを引き金に、配列特異的に標的mRNAを分解して遺伝子発現を抑える細胞内機構。siRNAがDicerで切断されRISC複合体に取り込まれて働く。

iPS細胞 iPSC Induced pluripotent stem cell
バイオ・創薬

体細胞にごく少数の因子を導入して作られる多能性幹細胞である。さまざまな組織や臓器の細胞へ分化する能力と、ほぼ無限に増殖する能力をもつ。マウスでは2006年、ヒトでは2007年に作製が報告され、患者由来の細胞を使う創薬研究と再生医療の双方で用いられている。

アデノ随伴ウイルスベクター AAV Adeno-associated virus vector
バイオ・創薬

遺伝子治療において治療用の遺伝子を細胞へ届けるために用いられるウイルスベクターである。米国では、AAV5型のベクターを単回の静脈内投与で用い、肝臓で血液凝固第VIII因子を発現させる重症血友病Aの遺伝子治療が2023年に承認されている。ベクターに対する既存抗体の有無が投与対象を左右する。

アミロイドーシス Amyloidosis
バイオ・創薬

毒性をもつ不溶性のβシート線維状タンパク質凝集体が組織に沈着することで生じる、不均一な疾患群である。X線回折ではβプリーツシート構造を示し、コンゴーレッド染色で黄緑色の複屈折を示すことが診断上の特徴になる。全身性の主な型には AL、ATTR、AA がある。

アルツハイマー病 AD Alzheimer's Disease
バイオ・創薬

記憶と思考の能力をゆっくりと破壊し、やがて最も単純な作業を行う能力までも失わせる脳の疾患である。米国国立老化研究所は高齢者における認知症の最も一般的な原因と位置づける。脳内にはアミロイド斑とタウのもつれが蓄積し、神経細胞間の結合が失われる。損傷は記憶の形成に関わる海馬と嗅内皮質から始まる。

αシヌクレイン SNCA Alpha-synuclein
バイオ・創薬

シヌクレイン科に属し脳に豊富に発現する蛋白質。その異常はパーキンソン病の発症機序に関与するとされる。

アレルギー Allergy
バイオ・創薬

多くの人には問題を起こさない物質に対して免疫系が反応することをいう。米国立医学図書館は、本来は病原体と戦う免疫系が誤った警報に応じている状態と説明する。花粉、ダニ、カビの胞子、動物のフケ、食物、虫刺され、医薬品が反応を起こしやすい物質として挙げられる。症状は軽度から重度まであり、アナフィラキシーは生命を脅かす。

アンチセンスオリゴヌクレオチド ASO Antisense Oligonucleotide
バイオ・創薬

標的RNAの塩基配列に相補的に結合する短い合成一本鎖核酸である。結合後にRNase H1を介して標的RNAの分解を導く型と、分解を伴わずに標的部位を立体的に覆ってスプライシングや翻訳を変える型がある。配列情報から設計できるため、低分子や抗体では狙いにくい標的にも適用され、核酸医薬の主要なモダリティの一つとなっている。

アンドロゲン性脱毛症 AGA Androgenetic Alopecia
バイオ・創薬

男性にも女性にも生じる頻度の高い脱毛の形態である。男性では男性型脱毛症と呼ばれ、両側のこめかみの上から生え際が後退して特徴的なM字形となり、頭頂部も薄くなって部分的あるいは完全な脱毛へ進むことがある。女性では頭頂部が薄くなって中央の分け目が広がる一方、生え際は通常後退せず、完全な脱毛に至ることはまれである。

1型糖尿病 T1D Type 1 Diabetes
バイオ・創薬

体内でインスリンがほとんど、あるいはまったく作られなくなる疾患である。米国国立糖尿病・消化器・腎臓病研究所は、免疫系が膵臓のインスリン産生細胞を破壊することで発症する自己免疫疾患と説明する。ほとんどの患者は血糖値を管理し生命を保つために毎日インスリンを投与する必要がある。糖尿病患者の5〜10パーセントを占める。

遺伝子治療 Gene Therapy
バイオ・創薬

米国食品医薬品局(FDA)は、ヒト遺伝子治療を、遺伝子の発現を改変もしくは操作すること、または治療目的で生細胞の生物学的性質を変えることを目指すものと説明する。手法として、疾患の原因となる遺伝子を正常なコピーで置き換える、正しく機能していない原因遺伝子を不活化する、疾患の治療を助ける新規または改変した遺伝子を体内へ導入する、の3つが挙げられている。

遺伝子補充療法 Gene augmentation therapy
バイオ・創薬

変異により機能を失った遺伝子に対し、正常な遺伝子のコピーを標的細胞へ導入して機能を補う遺伝子治療の方式である。網膜疾患では、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いて網膜の標的細胞へ導入する手法が中心とされる。遺伝子を書き換える編集型や、エクソンスキッピング型とは区別される方式である。

遺伝性出血性末梢血管拡張症 HHT Hereditary Hemorrhagic Telangiectasia
バイオ・創薬

血管に複数の異常が生じる遺伝性の疾患である。一部の動脈が毛細血管を経ずに直接静脈へ流れ込む動静脈奇形が生じ、毛細血管という緩衝を欠くまま高い圧力の血液が静脈へ流れ込むため血管が拡大する。皮膚表面近くに現れたものは赤い斑点として視認でき、テランジエクタジアと呼ばれる。ACVRL1、ENG、SMAD4などの遺伝子の変異が原因として挙げられている。

医薬品開発製造受託機関 CDMO Contract Development and Manufacturing Organization
バイオ・創薬

医薬品の開発と製造を委託者に代わって担う事業者を指す業界呼称である。FDAは受託施設を「所有者に代わって一つ以上の製造工程を行う者」と定義し、製剤化や充填、分析試験などの委託範囲と当事者それぞれの責任を品質取決めで明確にするよう求めている。

医療用ラジオアイソトープ Medical Radioisotopes
バイオ・創薬

World Nuclear Association の解説によれば、核医学は臓器の機能についての診断情報を得るため、または治療のために放射線を用い、そこで使われる放射性同位体が医療用ラジオアイソトープである。核医学の処置は年間5,000万件を超え、需要は増えているとされる。主要な診断用核種であるTc-99mは原子炉で製造したMo-99から得るジェネレータで供給され、PET用のF-18のように加速器で製造する核種の利用も広がっている。

インシリコ臨床試験 ISCT In Silico Clinical Trial
バイオ・創薬

医薬品・医療機器・医療介入の開発または規制評価において、個別化した計算機シミュレーションを用いる手法。

インターロイキン23受容体 IL-23R Interleukin-23 Receptor
バイオ・創薬

免疫細胞の表面にある受容体で、サイトカインのインターロイキン23が結合すると細胞内へ信号が伝わり、炎症を促す反応と免疫応答の調整が起きる。乾癬、クローン病、強直性脊椎炎など複数の炎症性疾患と遺伝的な関連が報告されており、炎症性疾患領域の創薬標的として研究されている。

AMPA型グルタミン酸受容体 AMPAR AMPA receptor
バイオ・創薬

グルタミン酸を内因性リガンドとするイオンチャネル型受容体の一種で、中枢神経系の速い興奮性シナプス伝達を担う。GluA1からGluA4の4種のサブユニットが四量体を形成し、選択的に作用する合成作動薬AMPAの名にちなんで分類された受容体である。

液体クロマトグラフィー質量分析 LC-MS Liquid Chromatography–Mass Spectrometry
バイオ・創薬

液体クロマトグラフィーによる分離と質量分析による検出・定量を連結した分析法である。エレクトロスプレーイオン化で試料をイオン化し、前駆イオンと生成イオンの組を監視する多重反応モニタリングにより、夾雑物の多い生体試料でも特異性と感度を両立できる。薬物動態評価や臨床検査で広く用いられる。

液体生検 Liquid Biopsy
バイオ・創薬

米国国立がん研究所(NCI)がん予防部門は、液体生検を「体液を繰り返し採取して腫瘍を分子レベルで特徴づけ、遺伝的変化を経時的に監視する測定」と説明している。対象となるのは血清・血漿・尿などに含まれる循環腫瘍細胞(CTC)、循環腫瘍DNA(ctDNA)、循環エクソソームといった分析対象物である。

siRNA医薬 siRNA Small interfering RNA therapeutics
バイオ・創薬

細胞がもつRNA干渉の仕組みを利用し、標的とするmRNAを分解して特定のタンパク質の産生を抑える医薬である。FDAはパチシランを遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシスに対する最初の承認薬と位置づけ、標的組織へ届けるために脂質ナノ粒子などの送達システムが必要だとしている。

エピゲノム編集 Epigenome Editing
バイオ・創薬

DNAの塩基配列を書き換えずに、エピジェネティックな標識を書き換えて遺伝子発現を変える技術である。Nature Reviews Drug Discovery誌の2025年の総説は、これをゲノムを編集することなくエピジェネティックな特徴を書き換えて遺伝子発現を再プログラムする手法と説明する。標的配列を認識する部品として触媒活性を失わせたCas9(dCas9)やジンクフィンガータンパク質が使われ、そこにDNAメチル基転移酵素やTET酵素などのエフェクタードメインを連結して、標識を書き込むか消去する。

塩基編集 Base Editing
バイオ・創薬

DNAの二本鎖切断を起こさずに、狙った1塩基を別の塩基へ置き換えるゲノム編集技術。デアミナーゼをdCas9やCas9ニッカーゼに融合させて用いる。

オプトジェネティクス Optogenetics
バイオ・創薬

Materials Today Bio 誌の総説によれば、遺伝的に規定された生体プロセスを高い空間分解能と時間分解能で操作できるようにする手法である。ミリ秒単位で神経活動を光制御した最初の実証以降、微生物由来オプシンによる興奮と抑制から、細胞内シグナル伝達、分子集合、グリア活動、神経筋機能、分散した神経回路の制御へと対象が広がったとされる。網膜を対象とする応用が、ヒトでの概念実証として最も明確な事例だと位置づけられている。

オルガノイド Organoid
バイオ・創薬

幹細胞から作られる三次元の培養体で、対応する組織の構造と機能の主要な側面を再現するものを指す。従来の二次元培養よりヒトの生理を近く反映するとされ、疾患メカニズムの解析、薬効評価、毒性評価に用いられる。患者由来のオルガノイドでは個々の患者の薬剤応答の評価も検討されている。

カルシニューリン阻害薬 CNI Calcineurin Inhibitor
バイオ・創薬

T細胞の活性化に関与する脱リン酸化酵素カルシニューリンの働きを抑え、免疫応答を抑制する薬剤群である。既存薬はイムノフィリンと複合体を形成してから標的を阻害し、臓器移植後の拒絶反応の予防や自己免疫疾患の治療に用いられる。腎毒性が代表的な有害事象として知られる。

肝細胞増殖因子 HGF Hepatocyte Growth Factor
バイオ・創薬

間葉系細胞が分泌し、上皮細胞の増殖、運動性、形態形成を調節する多機能サイトカインである。受容体チロシンキナーゼMETに結合して作用し、血管新生や組織再生にも関与する。上皮の再生を促す性質から、創傷治癒や組織修復を狙う医薬品の候補分子として研究されている。