細胞内で情報を伝えるセカンドメッセンジャーとして働く低分子である。Gタンパク質共役受容体の刺激を受けたアデニル酸シクラーゼがATPから生成し、ホスホジエステラーゼが分解する。主にプロテインキナーゼAを活性化して細胞応答を引き起こし、免疫細胞の機能調節にも関わる。
T細胞受容体としてγ鎖とδ鎖を持つT細胞。血中に多いVγ9Vδ2サブセットはブチロフィリンファミリーのBTN2A1を認識し、完全な活性化にはBTN3A1の発現を要する。
プリン体代謝の最終段階でヒポキサンチンおよびキサンチンを尿酸へ酸化する酵素キサンチンオキシダーゼを阻害し、体内での尿酸産生そのものを減らす薬剤群である。アロプリノールやフェブキソスタットが代表例で、高尿酸血症・痛風に対する尿酸降下療法の一次治療として広く用いられる。
患者数の少ない疾患を対象とする医薬品に与えられる制度上の位置づけである。米国では希少疾病用医薬品法に基づく指定により、対象となる臨床試験の税額控除、審査手数料の免除、承認後に最大7年間の市場独占権を得られる可能性といった優遇が受けられる。指定は承認そのものではない。
γ-アミノ酪酸を内因性リガンドとするリガンド依存性の陰イオンチャネルで、中枢神経系の抑制性シナプス伝達を担う。4回膜貫通型サブユニットの五量体として構成され、多くのサブタイプはα・β・γの3種を含み、γとαのサブユニット界面がベンゾジアゼピン結合部位を形成する。
肺の微小な空気の袋に液体がたまり、血流へ十分な酸素を移せなくなる重篤な呼吸不全である。米国立心肺血液研究所(NHLBI)は、ARDSでは肺の小さな空気の袋の内部に液体がたまり、サーファクタントが壊れることで、肺が正しく空気で満たされず十分な酸素を血流へ移せなくなると説明する。別の疾患や大きな外傷によって重症の状態にある人に生じ、酸素を供給することが主たる治療である。
標的とするDNA配列に一致するガイドRNAでCas9酵素を目的の位置へ導き、ゲノムを切断して編集する技術である。ZFNやTALENと異なりタンパク質を作り直す必要がなく合成RNAの設計で済むため扱いやすく、研究用途と治療開発の双方で使われている。意図しない箇所の切断は課題として残る。
RAS/MAPK経路で働くK-Rasタンパク質をつくる遺伝子であり、がん遺伝子(オンコジーン)に分類される。K-RasはGTPと結合して活性化し、GTPをGDPへ変換して不活性化するスイッチとして働く。体細胞変異は膵臓がんと大腸がんを中心に複数のがんの発生に関与し、変異タンパク質は常に活性化した状態で細胞を無秩序に増殖させる。
がん細胞が、由来組織の細胞系譜(リネージ)を規定する分化プログラムに依存して生存・増殖する性質を指す。ゲノム変異の有無とは別の軸で腫瘍の生存機構を説明する概念であり、正常発生で働く系譜決定因子ががん細胞の生存必須因子へ転じた状態を対象とする。
血液と脳組織との境界にあり、物質の行き来を選択的に制限する仕組みである。Fluids and Barriers of the CNS誌の2020年の総説によれば、その実体は神経血管ユニットと呼ばれる構造で、密着結合を持ち小胞輸送が乏しくミトコンドリアに富む内皮細胞、基底膜に埋め込まれたペリサイト、血管外側表面のほぼ全面を覆うアストロサイト終足などから成る。密着結合が細胞間隙を封じ、排出トランスポータが異物を血中へ押し戻す一方、必要な栄養素は担体輸送で選択的に通す。
リガンドと標的分子が結合する強さを表す指標。平衡状態で標的の半数が占有されるリガンド濃度に対応し、平衡解離定数KDで表される。KDは解離速度定数と結合速度定数の比で定義され、値が小さいほど結合が強い。分子設計では最適化の主要な評価軸となる。
病原体分離株のゲノム配列から相互の類縁関係を推定し、疫学情報と統合して感染症の伝播を解析する分野。
米国国立ヒトゲノム研究所(NHGRI)は、ゲノム編集を、植物・細菌・動物を含む多くの生物のDNAを科学者が変えられるようにする方法と説明する。技術ははさみのように働き、特定の箇所でDNAを切断し、そこでDNAを取り除く、加える、置き換えるといった操作を行う。2009年に考案されたCRISPRは、従来の手法より単純で速く安価かつ正確とされる。
生物活性天然物の生合成経路や機能的・化学的相互作用を検出するために行うバイオインフォマティクス解析の総称。
米国の新薬承認申請(NDA)の一類型である。米食品医薬品局(FDA)は、連邦食品・医薬品・化粧品法第505条が三つの申請類型を定めるとし、505(b)(2)申請を、安全性と有効性に関する調査の完全な報告を含むが、承認に必要な情報の少なくとも一部が申請者自身またはその委託によらない試験に由来し、かつ申請者がその参照権(right of reference)を得ていないものと説明する。505(b)(1)に基づき提出され505(c)に基づき承認される。規則は21 CFR 314.54にある。
細菌、ウイルス、真菌、寄生虫が抗微生物薬に反応しなくなる現象である。世界保健機関は、その結果として感染症の治療が困難または不可能になり、感染拡大、重症化、障害、死亡の危険が高まるとする。2021年には細菌の抗菌薬耐性が世界で470万人を超える死亡に関連したと推定されている。
甲状腺の細胞膜を貫通する受容体で、下垂体が出す甲状腺刺激ホルモン(TSH)が結合すると甲状腺ホルモンの産生につながる反応が起きる。受容体の働きを変える遺伝子変異は甲状腺機能の低下や過剰と結び付けられ、自己免疫疾患であるバセドウ病も関連疾患として挙げられている。
生物を有用な目的のために設計し直し、新しい能力を持つよう工学的に作り替える科学分野である。米国国立ヒトゲノム研究所は、長いDNA配列をつなぎ合わせて生物のゲノムへ導入する手法を中心に据え、既存のDNAへ小さく標的を絞った改変を加えるゲノム編集と区別する。医療、製造、農業の課題を扱う。
Molecules 誌に掲載された総説によれば、産業上の反応を効率よく触媒できるよう酵素を設計・改変する取り組みである。従来はランダム変異と選抜を繰り返す指向性進化が中心だったが、数千規模の変異体を実験で検証する必要があり時間と費用がかかる。近年はAIによる構造予測と配列設計が加わり、実験検証を要する変異体の数を減らしながら精度の高い設計が可能になってきたとされる。
がん細胞などの表面にあるタンパク質を認識するモノクローナル抗体に、リンカーを介して薬物を化学的に連結した医薬品である。抗体が標的細胞に結合して細胞内に取り込まれた後に薬物が作用するため、薬物が働く場所を抗体の認識能力によって絞り込む設計を取る。抗体、リンカー、ペイロードの組み合わせが設計上の変数となる。
好中球のアズール顆粒に蓄えられるセリンプロテアーゼ群で、好中球エラスターゼ、プロテイナーゼ3、カテプシンG、NSP4が含まれる。感染防御や組織修復に働く一方、過剰な活性は組織傷害の主要な媒介因子となり、慢性の呼吸器疾患を中心に創薬の標的とされている。
血管内皮増殖因子(VEGF)のシグナルを妨げる薬剤を用いる治療の総称である。米国国立眼研究所は、滲出型の加齢黄斑変性に対して医師が眼内に注射する抗VEGF薬を治療選択肢として挙げている。抗体や融合タンパク質などの形式があり、硝子体内への投与間隔をいかに延ばすかが開発上の論点となっている。
損傷した軸索が自己を分解するプログラム軸索変性の実行酵素である。TIRドメインがNAD+を切断する活性を持ち、前駆体NMNとNAD+の比の上昇を感知して活性化する。軸索変性が関与する神経疾患を対象とする創薬標的として注目され、酵素活性を止める低分子阻害薬の開発が進む領域である。
細胞から放出される、脂質二重膜で囲まれた粒子である。国際細胞外小胞学会(ISEV)の指針MISEV2023は、細胞外小胞を「細胞から放出され、脂質二重膜で区切られ、それ自身では複製できない(すなわち機能的な核を持たない)粒子」と定義する。同学会は、分離法の多くがどの細胞内経路で作られた小胞かを確定できないことから、エクソソームやエクトソームといった生合成経路に基づく名称ではなく、総称として細胞外小胞を用いることを推奨している。
細胞の外側の空間を満たす高分子のネットワーク。グリコサミノグリカンとプロテオグリカンが保水性の高いゲル状の基質を作り、そこにコラーゲンやエラスチン、フィブロネクチン、ラミニンなどの繊維状タンパク質が組み込まれる。組織の力学的支持に加え、接する細胞の挙動も制御する。
細胞そのものを治療の手段として用いる製品の総称である。米国食品医薬品局は、細胞性免疫療法、がんワクチン、特定の適応に対する自家および他家の細胞をこれに含めるとし、造血幹細胞ならびに成体幹細胞と胚性幹細胞も規制の対象に挙げる。米国では生物製剤評価研究センター(CBER)が所管する。
患者から採取したT細胞に、がん細胞表面の抗原を認識するキメラ抗原受容体(CAR)を発現させる遺伝子改変を加え、増殖させてから患者に戻す細胞免疫療法である。米国では血液がんを対象に複数の製品が承認されており、採血から投与までにかかる期間は約3〜5週間とNCIは説明している。
インクレチンホルモンGLP-1の作用を模倣する薬剤群。血糖が高いときに膵β細胞からのインスリン分泌を促し、α細胞のグルカゴン産生を抑え、胃排出を遅らせ、視床下部への直接作用で満腹感を高める。米国では2型糖尿病と肥満症の治療、確立した動脈硬化性心血管疾患での心血管リスク低減に承認されている。
子宮の内膜に似た組織が、子宮の外の場所で増殖する疾患である。米国国立小児保健・人間発達研究所(NICHD)は、最も一般的な婦人科疾患のひとつと位置づけ、主な症状として疼痛と不妊を挙げる。診断を確定できる方法は現時点では手術のみとされる。治癒させる治療法は無いが、症状に対する有効な治療の選択肢はあるとされ、機序・診断・治療の理解を進める研究が支援されている。
グルコースがα-1,4結合で環状につながった環状オリゴ糖である。外側が親水性、中央の空孔が親油性という構造を持ち、難溶性分子を空孔に取り込む包接複合体を形成するため、医薬品の可溶化剤や輸送体として用いられる。環サイズによりα体・β体・γ体があり、水溶性を高めた化学修飾誘導体も広く使われる。